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ワーファリンと特殊カテーテルは心房細動アブレーションの合併症としての脳梗塞を減らす

カテーテルアブレーションには脳梗塞という合併症がまれではありますが、存在します。今回それを防ぐ方法についてのかなり大規模な研究が報告されました(Circulation. 2010;121:2550-2556)。

背景)心房細動のカテーテルアブレーションには、脳卒中の合併が1%~5%の頻度でみられる。この合併率を前向きに調査し、アブレーション前後での抗凝固療法とオープンイリゲーションカテーテル(注1)がこの脳梗塞を減らせるかを検討した。

方法と結果)同じカテーテルの方法と抗凝固療法を行っているアメリカの大きな9つの医療機関を選定し、患者さん6454人を以下の3つのグループに分けた。
グループ1)先端が8mmのカテーテル使用。ワーファリンなし。2488例
グループ2)イリゲーションカテーテル、ワーファリンなし。1348例
グループ3)イリゲーションカテーテル、ワーファリンあり。2618例
 アブレーション前後の脳梗塞や一過性脳虚血発作の頻度はグループ1が27例1.1%、グループ2が12例0.9%であった。発作性ではない例やCHADS2スコア(注2)の高い例が多かったにもかかわらず、グループ3で脳卒中を起こした人は一人もいなかった。その他の合併症、大出血や心嚢液はどのグループも同じ頻度であった。

結論)オープンイリゲーションカテーテルとカテーテル前後のワーファリンによる抗凝固療法の組み合わせは、心嚢液や出血と言った合併症を増加させることなく、脳梗塞のリスクを減らした。

(注1)オープンイリゲーションカテーテル:カテーテルの先端に穴があいていて、そこから組織を焼いている最中に生理食塩水を放出させて、カテーテルが過度に高温になることを防ぐことを目的として作られた。
(注2)CHADS2スコア:ワーファリンをのむべきかどうかの判断基準。心不全、高血圧、75歳を超えている、糖尿病、脳梗塞の既往のそれぞれを1点(脳梗塞のみ2点)とし、日本では2点以上で飲むべき、1点以上でも勧められるとされている。

###日本では、ほとんどの施設でアブレーション前後には必ずワーファリンが使われていると思われますので、その点はアメリカよりきめ細かい管理がされていると思われます。今回の注目はイリゲーションカテーテルです。カテーテルの先端が暖まりすぎるとカテーテルと心臓の筋肉との間に一種のこげ(血液や組織の固まり)ができるので、それを回避するこのカテーテルは安全であると思われます。それを裏付ける結果となりました。
by dobashinaika | 2010-06-21 23:49 | 心房細動:アブレーション | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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