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D-ダイマーは抗凝固薬を飲んでいる心房細動患者の塞栓症や心血管事故を予測する

ワーファリンの効果を調べる検査としてPT-INR(プロトロン時間国際標準化)が広く用いられていますが、時にワーファリンを十分飲んでいてもPT-INRが高いままであり、脳塞栓症を起こす患者さんがいることが知られています。そうした患者さんの場合他の検査が必要となりますが、以前からD-ダイマーという検査が有効であるといわれていました。今回脳塞栓や心血管重大事故の予測にも役立つことが、日本の病院の先生からアメリカの一流心臓専門雑誌(J Am Coll Cardiol, 2010; 55:2225-2231)に報告されました。

目的)D-ダイマーの上昇が、抗凝固薬(ワーファリンなど)を服用中の心房細動患者の脳塞栓症や心血管事故を予測するかどうかにつき検討した。

背景)心房細動の場合抗凝固薬を服用しているにも関わらず、凝固能(血液が固まる力)が異常な場合がある。D-ダイマーのレベルは血栓(血液の固まり)ができる前の段階を反映しており、塞栓症や心血管事故の予測に役立つかもしれない。

方法)熊本県の病院に2006年1月から2007年4月まで、ワーファリン服用中の心房細動患者301人を登録し、最終的に269人(男57%、平均艶麗74歳、160人が発作性)を対象にした。塞栓症と心血管事故(脳塞栓、脳出血、心筋梗塞、心血管病による死亡)を比較した。患者のPT-INRは1.5~3.0であった。

結果)D—ダイマーが高い(0.5µg/ml以上)患者は63人、23%であった。彼らは年間10人(1.8%)の割合で塞栓症(脳塞栓8人、一過性脳虚血発作1人、末梢血管塞栓1人)を認め、年間27人(4.8%)の割合で心血管事故(塞栓血栓症10人、心不全による死亡9人、突然死3人、心筋梗塞2人、脳出血3人)を認めた。D-ダイマー値が高い患者は塞栓症や心血管事故を高率に来した(塞栓症はD-ダイマーが低い患者の15.8倍、心血管事故は7.64倍)。
D-ダイマーは抗凝固薬を飲んでいる心房細動患者の塞栓症や心血管事故を予測する_a0119856_2348536.gif



結論)D-ダイマーは、抗凝固薬を服用している心房細動患者の塞栓症と心血管事故の両方に有効な指標となりうる。

###D-ダイマーとは体の中で血液が固まったときにできる血栓(フィブリン)がとかされて分解された物質です。ですので、D-ダイマーが高いということは、体のどこかに血液の固まりが存在していることを示す訳です。一方PT-INRは血液の中の凝固因子という、血液を固まらせるタンパク質の活動性を表しています。ですからD-ダイマーの方が心房細動の副産物である左心房の中の血栓の有無を直接反映している数字ということができます。実際PT-INRは毎月採血されている方も多いと思いますが、これの高い低いでもって将来脳塞栓や、心血管事故などを予測することはできませんでした。その点D-ダイマーは将来のことまで予測する有効な検査といえます。ただしこの論文で設定された0.5という値が果たしてこれでよいのかについては今後もっと研究を重ねるべきと思われます。またPT-INRのようにどこの医療機関でもその日のうちに検査できるまで普及していません。しかしワーファリンにかわる新しい抗凝固薬の登場が間近であり、今後に期待できる検査です。

by dobashinaika | 2010-05-16 23:09 | 抗凝固療法:適応、スコア評価


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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