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2024年JCS/JHRS不整脈治療ガイドラインアップデート版より:抗凝固療法高リスクの高齢患者への対応についての考え方

2024年JCS/JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療,紹介の続き。今回は「抗凝固療法高リスクの高齢患者への対応」です。
 ANAFIE レジストリ,J-ELD AF レジストリ,ELDERCARE-AFなどの高齢者を対象としたリアルワールド研究のデータが蓄積されたのを踏まえ,高齢者,超高齢者,ハイリスク者の抗凝固療法について,改めて推奨クラスが示されました。

1)腎機能
以下の腎機能低下者にはDOACが勧められれています。
・30 mL/ 分≦ CCr <50 mL/ 分の軽度〜中等度腎機能障害患者:I-A
・15 mL/ 分≦ CCr < 30 mL/ 分の重度腎機能障害患者:IIa-B(ダビガトラン以外)

CCr<30かつ非透析導入患者では,「ワルファリンは考慮しても良い」
透析患者ではクラスIII (No benefit)となっています。
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2)ポリファーマシー,低体重,フレイル,認知症(MMSE ≦ 23 点)
これらを主たる理由として抗凝固療法を控えることなく,積極的に行うというのが今回のメッセージです。やはりかなりの高リスク者であっても,塞栓リスクのほうが出血リスクより大きいというのが基本理解だと思われます。
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ただしたとえばANAFIEレジストリの対象は平均年齢81.5歳ですが,認知症は7.8%で在宅患者や非通院患者は含まれていません。レジストリですから,在宅患者あるいは要介護4以上のADLもかなり制限されている人は含まれていません。そして診療所を受診する高齢者はこうした要介護3,4以上の人が増えています。

ですから今回のアップデートを現場感覚で解釈すれば,
1)ADLがほぼ自立あるいは部分介助で,フレイルや服薬アドヒアランスは家族やスタッフの介助で支障がない,通院は可能。そういった患者さんは積極的に抗凝固(今回のガイドラインの根拠となった上記レジストリの対象者)。
2)ベッド上生活,一人暮らしや認知症のため服薬アドヒアランスや不良な人はケースバイケース
3)ずっと抗凝固を続けている人は,要介護度がアップしてもなるべくそのままで継続
という感じかと思います。

3)抗血小板薬使用者
 AFIRE研究を受けて,抗凝固薬と抗血小板薬が原則として併用すべきでない(III.Harm-B)ことが明言されています。ただPCI後1年以内やごく一部の症例(下記)は併用せざるを得ないとしています。また,非心原性脳梗塞患者で抗血小板薬を布教していた人が心房細動になった場合などには本文中で言及されていないようです。
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4)抗凝固療法高リスクの高齢心房細動患者(超高齢高出血リスク)
ELDERCARE-AFの結果から,以下のケースに限ってエドキサバンの15mgが推奨されています。あくまで80歳以上ですので,それ未満の人で腎機能がたとえCCr30以下でも適応されないことには注意です。
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今回のアップグレードは,あらためて高齢者では高リスクだけを理由に抗凝固薬を控えることはせず,積極的に投与を考えてよいというメッセージかと思います。ただし現実世界では,実にこうしたカテゴリーでくくれないケースばかりと言っても過言ではないので,まだまだGDMTはこの領域では手探りと言っていいと思います。

$$$今日の八幡宮散歩
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# by dobashinaika | 2024-03-21 22:45 | 抗凝固療法:ガイドライン | Comments(0)

日本独自の新しい心房細動脳梗塞リスク評価ツール・HELT-E2S2 スコアの使い方

先週神戸で開催された第88回日本循環器学会の初日に合わせて,2024年JCS/JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈治療(日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン)が発表されました。

第1章 植込み型心臓電気デバイス
第2章 カテーテルアブレーション
第3章 心房細動の薬物治療と包括管理
第4章 市民・患者への情報提供
の4章から成っています。

本日は,新たな本邦独自の脳梗塞リスク評価ツール:HELT-E2S2 スコア(ヘルトイーツーエスツースコアと呼ぶそうです)についてまとめます。

同スコアは,日本を代表する心房細動患者対象の5つのレジストリ(J-RHYTHM レジストリ,Fushimi AF レジストリ,Shinken Database,Hokuriku-Plus AF レジストリ,Keio Interhospital Cardiovascular Study)の統合解析(J-RISK)から,脳梗塞発症に寄与する独立危険因子を同定したものです。(元の論文はこちら

CHADS2 スコア,CHA2DS2-VASc スコアと共通する危険因子として年齢,高血圧,脳卒中既往の 3 因子が追認された一方,糖尿病,心不全,血管疾患は独立危険因子として同定されず,かわりに,85 歳以上,BMI 18.5kg/m2 未満,持続性 / 永続性心房細動という新たな危険因子が同定されました。
日本独自の新しい心房細動脳梗塞リスク評価ツール・HELT-E2S2 スコアの使い方_a0119856_22114319.png

このスコアの使用法ですが,同ガイドラインでは,従来通りCHADS2スコアを推奨クラスIとしており,HELT-E2S2 スコアはIIa,CHA2DS2-VAScスコアはIIbと格付けされました。
日本独自の新しい心房細動脳梗塞リスク評価ツール・HELT-E2S2 スコアの使い方_a0119856_22143520.png
国内の 2 つの多施設研究(RAFFINE,SAKUFAAF レジストリ)の統合データにより行われた外部妥当性検証では,C統計量はCHADS2スコア,CHA2DS2-VAScスコアのいずれをも上回っていました。

しかしながら,何点以上なら抗凝固療法を考えるというポイントは示されませんでした。抗凝固薬の有無の脳梗塞発症に対するハザードを HELT-E2S2 スコア別に検討すると,HELT-E2S2 スコア 2 点以上の患者で有意なハザード低下(抗凝固なしに比べありのほうが有意に発症率が低い)を認めており,2点がおおよその目安なのかもしれません。ただし患者背景による調整を行っておらず,また出血を考慮したネットクリニカルベネフィットの解析が必要のため,現時点では点数により抗凝固の適応を決定するまでに至っていないようです。
日本独自の新しい心房細動脳梗塞リスク評価ツール・HELT-E2S2 スコアの使い方_a0119856_22140611.png
ちょうど昨年発表された米国の,2023 ACC/AHA/ACCP/HRS Guideline for the Diagnosis and Management of Atrial Fibrillationでは,スコアの「柔軟な使い方」が提唱されていて,年間脳卒中リスクが2%以上(CHA2DS2-VAScスコア換算で2点以上)なら抗凝固(クラスI)で,2%未満は,
・高い心房細動負荷(長期持続)
・持続性または永続性心房細動(発作性心房細動と比較して)
・肥満
・肥大型心筋症
・コントロール不良の高血圧
・eGFR(45mL/h未満)
・蛋白尿(150mg/24時間以上)・
・左房容積(73mL以上)または左房径(4.7cm以上)拡大
の各因子を考慮となっていました。

これまでの日本循環器学会の2020ガイドラインでは
・心筋症
・65-74歳
・血管疾患
・持続性,永続性
・腎機能障害
・低体重≦50kg
・左房系拡大>45mm
が追加因子でしたが,今回のHELT-E2S2 スコアでは「低体重」「持続性/永続性」が重複していました。
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上記知見をもとに私見を述べますと,
1)CHADS2スコア2点以上あるいは,75歳以上,高血圧のみの1点では抗凝固。
2)糖尿病,心不全は重症であれば単独でも(1点で)抗凝固(この2つのみ1点は少ないが)
3)管理良好の場合は他のリスク,特にHELT-E2S2 スコアで重複した低体重,持続性/永続性ありなら抗凝固
という感じでしょうか。あくまでCHADS2スコアの補助として使うというのが現時点での私のスタンスです(ガイドライン上はあくまでCHADS2スコア1点以上でDOAC「推奨」です)。ただし実際CHADS2スコアはやや古くなった感もあります。今後の検証結果によってはこちらのスコアを重視するといった流れもありうるかもしれないですね。

$$$八幡宮境内を散策中
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# by dobashinaika | 2024-03-17 22:31 | 抗凝固療法:ガイドライン | Comments(0)

心房細動診療に残された大きな問題;短時間の心房細動(Atrial High Rate Episodes)に抗凝固療法は施行すべきか:NOAH-AFNET 6試験とARTESIA試験のまとめ

心房細動の治療は,抗凝固薬とカテーテルアブレーションにより成熟した感があるわけですが,一方,言ってみれば今まで隠されてきたと言うか,みんなが気づいていながら深く検討されてこなかった問題があります。それはすなわち,どのくらい続いたら本当の心房細動と言うのか。もう少し具体的にいうと,どのくらい心房細動が持続したら抗凝固薬を使用すべきなのかということです。

これまで曖昧にされてきたこの問題,ウエラブルデバイスの登場により真剣に取り組まれるようになりました。すなわちアップルウォッチ等で数分間記録された「心房細動」に対し,CHADS2スコアが当てはまるからと言って即抗凝固薬を処方して良いのかという疑問が湧くわけです。

臨床的には,Subclinical AF (SCAF:潜在性心房細動)とは,無症候かつ各種デバイス(ウエアラブルもしくは植込み型)で同定されたものとされ,Atrial high-rate episodes(AHRE:心房高頻度エピソード)とは,植え込み型デバイスにより検出される,比較的短い心房細動類似の心房性イベントとされています。

最近発表されたAHA/ACCなどの心房細動ガイドラインでは,AHREへの抗凝固療法の適応は以下のようになっています。

・推奨クラス2a=中等度(エビデンスレベルB-NR):AHRE24時間以上かつCHA2DS2-VAScスコア2点以上または同等リスク(持続時間,個々の患者リスクの考慮とSDMの範囲内で)

・推奨クラス2b=弱め(エビデンスレベルB-NR): AHRE5分以上24時間未満。CHA2DS2-VAScスコアが3以上または同等リスク

・推奨クラス3: No Benefit(エビデンスレベルB-NR):AHRE5分未満で他の抗凝固療法の適応がないもの

実際には1)AF burden,すなわちAHREの頻度x持続時間 2)CHA2DS2-VAScスコアの2軸で決まると思われ,それをよく表したのが下図12です。この図によれば
A)投与しなくて良い:AHRE6分以内またはCHA2DS2-VAScスコア0点

(B)不確定:CHA2DS2-VAScスコア1点(女性は2点),あるいはAHRE6分から24時間未満かつCHA2DS2-VAScスコア2点(女性は3点)以上。2つのRCT待ち

(C) 投与:AHRE24時間以上かつCHA2DS2-VAScスコア2点(女性は3点)以上
となっています。
心房細動診療に残された大きな問題;短時間の心房細動(Atrial High Rate Episodes)に抗凝固療法は施行すべきか:NOAH-AFNET 6試験とARTESIA試験のまとめ_a0119856_22351241.jpg

実際には持続時間とCHA2DS2-VAScスコアは相関するので,24時間以上持続する例はリスクも高く一般的に抗凝固療法を行い,いっぽう6分以内のものは経過観察というのはこれから言えます。となると6分以上24時間以下のAHREが問題となるわけで,この解決のため2つの試験の結果が待たれていたということになります。

その2試験とは,周知のように今年のESCとAHAでそれぞれ発表されたNOAH-AFNET6試験ARTESIA試験です。これら2つはACC の“Latest In Cardiology”でTop Clinical Trialsの10本の論文のにも入っています。

では2つの試験の内容をみていきましょう。
両者とも,「6分以上の心房高頻度エピソード(ARTESIAは24時間以内)」を植込み型デバイスで確認できた患者が対象です。
結果は,ARTESIAはDOACは有効だが出血はアスピリンに比べて多い。NOAH-AFNRT6では,有効性はプラセボと同等で出血はやはり多いということになりました。
表にそれぞれの特徴をまとめました。
心房細動診療に残された大きな問題;短時間の心房細動(Atrial High Rate Episodes)に抗凝固療法は施行すべきか:NOAH-AFNET 6試験とARTESIA試験のまとめ_a0119856_22580894.png

対象はほぼ同じですので,相違点としては,DOACの種類(アピキサバンーエドキサバン),対照群(アスピリンープラセボ)。AHREの定義(6分〜24時間と6ふん以上)などとなります。

直感的にAHREの中身つまりAF burdenが最も影響するのではと考える人も多いと思いますが,ARTESIAではエピソードなし 15.8%,<6分未満,2.1%,6分~1時間未満,25.8%,1時間から6時間未満,35.5%,6時間から12時間未満,13.8%,12時間以上24時間未満,7.1%。NOAH-AFNRT6では平均2.8時間(0.8-9.4時間)となっています。後者の方は詳しい分布がわかりませんのでサブ解析などを待ちたいですが,それほどAF burdenに差はないようです。

このままだとどちらを信じていいかわかりませんが,すでに2つの試験のメタ解析が出ていて,それによれば虚血性脳卒中は減らし,大出血は増やすとの結果でした。症例数の多いARTESIAに引っ張られた可能性もあります。

全体として言えることは,AHREの持続時間が2時間前後と低burdenであること,総死亡,心血管死は減らしていないこと,脳卒中の発症率が年間1%前後と大変低かったことに目を向ける必要があると思われます。とくに平均持続時間が2-3時間の心房細動の場合,慎重さが必要と言えると思われます。

追記;ただ悩ましいのは,たとえば診察時に心房細動で翌日受診時は洞調律だった,すなわち持続24時間以内の場合でも,他の場面では24時間以上のエピソードを実は持っている可能性が否定できない点です。上記2試験はいずれも植込み型デバイスできっちり記録されたエピソードを扱っていますが,実臨床では心電図1回でしか判断できない場面も少なくありません。であれば1回の記録でも脳塞栓の可能性を考え,投与しておくというインセンティブが働くのはやむを得ないかもしれません。ということで,この問題は,実は「心房細動をどこまでモニターすべきか」,つまり心房細動という実在をどのように認識すべきか:という難しくも深い問題を含んでいるわけです。

まだまだ現場判断が迫られる領域と思います。
心房細動診療に残された大きな問題;短時間の心房細動(Atrial High Rate Episodes)に抗凝固療法は施行すべきか:NOAH-AFNET 6試験とARTESIA試験のまとめ_a0119856_22430677.jpeg

# by dobashinaika | 2024-01-03 23:00 | 心房細動:診断 | Comments(0)

東日本大震災と熊本地震における深部静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)の頻度とリスク因子をまとめました。

新年早々大変なスタートになりました。
被災した方に少しでも情報を提供したいと考え,2011年東日本大震災と2016年熊本地震の際に起きた深部静脈血栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)に関するリスク因子と頻度などをまとめてみました。

宮城循環器・呼吸器センターの研究

熊本大学の研究

どちらも震災後約1ヶ月でのデータです。
避難所を医療チームが周り,問診,身体診察,そして超音波検査で診断しています。

頻度;
東日本では21避難所,269人中65人=24%(うち53%は無症状)
熊本では80避難所,1673人中78人=10.6%に認められています。
東日本では施行3週間後が最も多く認められました。
熊本のデータでは,診断開始日(震災から4日目)が33%と最も高く発見されそれ以降は漸減しました。

リスク因子(なりやすいひとも特徴):
東日本では1)排尿回数減少 2)下腿外傷 3)車中での睡眠
熊本では1)70歳以上 2)睡眠薬使用 3)下腿浮腫 4)下腿静脈瘤でした。
熊本の4つのリスクを全部持っている人は71.4%で血栓が認められました。

両者の違いは,巡回による診察の頻度,診察した人数,場所などで違うと思われます。
また別の熊本地震の研究(福井大学ブループ)では,頻度は12.2〜18.5%で,リスクとしては1)75歳以上 2)アルコール消費でした。


東日本大震災の論文では,最後に深部静脈血栓症の予防策として
1)リスクに関する教育
2)就寝用マットを移動して通路を作ったり、夜間にトイレに行きやすくしたりする
3)理学療法士グループによる訓練
などと上げています。

具体的な予防策について厚生労働省の記載 日本循環器学会からの注意とお知らせなどを参照してください。


# by dobashinaika | 2024-01-02 16:11 | 循環器疾患その他 | Comments(0)

脳梗塞発症後の心房細動患者に対するDOAC投与は早い方が良い?:ELAN試験:ACCのTop Clinical Trials2023より

あけましておめでとうございます。
今年は少し更新の回数を増やしていきたいと思います。

さて,
ACC の“Latest In Cardiologyから,2023年に紹介された論文と臨床試験 (初発と続報)からアクセストップ10が発表されており,昨年からの心臓病学のトレンドを知ることができます。

心房細動関係では「Top Journal Scans」の中に,FRAIL-AF Trial(フレイル患者でのVKAからNAOCへの変更リスクを指摘)が紹介されています。

「Top Clinical Trials」ではELAN(脳卒中後の早期DOAC再開について),NOAH-AFNET6(心房高頻度エピソード:AHRAに対するNOAC),ATRESIA(潜在性AFに対するDOAC)の3論文が挙げられています。

昨年あまり更新していなかったので,まず昨年の主要論文のレビューとして上記のそれぞれの論文を紹介していきます。
まず昨年5月の紹介されたELAN試験から(FRAIL-AF Trialはすでに紹介済み)。なお本研究はAHAのcardiovascular disease research for 2023にも選ばれています。


目的:
抗凝固療法を受けていない非弁膜症性心房細動(AF)を有する急性虚血性脳卒中患者において、直接経口抗凝固薬(DOAC)治療の早期開始と後期開始の治療効果および安全性プロファイルを比較する。

方法:
1)対象:抗凝固療法を受けていない非弁膜症性心房細動(AF)を有する急性虚血性脳卒中患者。18歳以上,CTまたはMRIで異常所見あり。

2)
・早期開始群:軽症/中等症脳梗塞は48時間以内、重症脳梗塞は7日以内、n=1,006
・後期開始群:軽症脳梗塞は4日以内、中等症脳梗塞は7日以内、重症脳梗塞は14日以内、n=1,007

3)登録者総数:2,013人。追跡期間:90日。年齢中央値:77歳。。CHA2DS2-VAScスコア中央値:5

4)RCT,オープンラベル,治療法の選択は,臨床医の裁量

5)Strokeの治療:(38.9%)、血管内再灌流療法(22.2%)

6)脳卒中の大きさと分布:軽症,1.5cm以下: 37.4%
中等度、前・中・後大脳動脈皮質表在枝:39.5%。
1.5cm以上の大脳動脈梗塞または脳幹・小脳梗塞:23.1%。

7)一次評価項目:無作為化後30日以内の虚血性脳卒中再発、全身性塞栓症、頭蓋外大出血、症候性頭蓋内出血、血管死

結果:
1)一次評価項目:早期群 2.9% vs. 4.1% (odds ratio 0.70, 95 CI0.44-1.14).

2)二次評価項目;
・30日後の虚血性脳卒中再発: 1.4%対2.5%(OR 0.57、95%CI 0.29-1.07)
・30日後の全身性塞栓症 0.4%対0.9%(OR 0.48、95%CI 0.14-1.42)
・30日後の頭蓋外大出血 0.3%対0.5%(OR 0.63、95%CI 0.15-2.38)
・30日後の症候性頭蓋内出血: 0.2%対0.2%(OR 1.02、95%CI 0.16-6.59)
・30日後のModified Rankin scaleスコア≦2: 62.6%対62.6%(OR 0.93、95%CI 0.79-1.09)
・90日後の主要転帰 3.7%対5.6%(OR 0.65、95%CI 0.42-0.99)

要約:
非弁膜症性心房細動を持つ急性虚血性脳卒中の患者において、DOACの早期投与と後期投与で安全性と有効性が同等であることが示された。

脳梗塞発症後の心房細動患者に対するDOAC投与は早い方が良い?:ELAN試験:ACCのTop Clinical Trials2023より_a0119856_18263983.jpeg
### これまでESCガイドラインでは,脳梗塞後の抗凝固薬開始は軽症脳卒中では3日後、中等症では6日後、重症12日後とされ米国心臓協会/米国脳卒中協会のガイドラインでは、一部の高リスク患者では2週間以上待つこととされています。今回の報告では,軽症/中等症で2日以内,重症でも7日以内の投与で出血等に差がないことが示されました。脳梗塞の重症度をCT,MRI上の測定値で評価するなど新手法が取られていますが,

TIMING試験などとも同様の結果であり,今後早期投与の流れが加速するものと思われます。
脳梗塞発症後の心房細動患者に対するDOAC投与は早い方が良い?:ELAN試験:ACCのTop Clinical Trials2023より_a0119856_18374030.jpeg

# by dobashinaika | 2024-01-01 18:41 | 脳卒中後 | Comments(0)


土橋内科医院の院長ブログです。心房細動やプライマリ・ケアに関連する医学論文の紹介もしくは知識整理を主な目的とします。時々日頃思うこともつぶやきます。


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